弁護士 小 倉 秀 夫
自分の名誉やプライバシーを侵害する情報がウェブサーバに投稿された場合、そのウェブサーバの管理者が特定できれば、その削除を求めることができます。しかし、一旦削除してもらっても、また同じ内容が投稿されてしまえば、元の木阿弥です。
ですので、自分の名誉やプライバシーを侵害する情報がウェブサーバに投稿された場合には、そのような投稿をした人を特定し、損害賠償請求をするなどして、そういうことをすると痛い目に遭うことを判らせる必要があります。そのために設けられたのが、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(長いので通常「プロバイダ責任制限法」ないし「プロ責法」と略します。)第4条に基づく発信者情報開示請求権です。
基本的には、以下の要件が具備された場合に、プロバイダに対して、侵害情報に関する所定の情報の開示を請求することができます。
そして、開示される情報の種類は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令において規定されています。
この中には、「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称」「発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所」といった、訴訟提起するのに必要な程度個人を特定する情報も含まれます。また、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」や当該「アイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備…に侵害情報が送信された年月日及び時刻」のように、二段階目の発信者情報開示請求をするときに、「鍵」になる情報も含まれます。さらに「発信者の電話番号」や「発信者の電子メールアドレス」のように、それ自体では、訴訟提起に必要な個人特定には至らないし、二段階目の発信者情報開示請求をするときの「鍵」にも通常ならないけれども、弁護士会照会など他の証拠収集手続きを用いるときに使える情報も含まれます。
手順としては、まずは、権利侵害情報を掲載しているプロバイダ(コンテンツプロバイダ)に対し発信者情報開示請求を行います。コンテンツプロバイダが投稿時のIPアドレスと投稿日時くらいしか情報をもっていなかった場合には、当該投稿を行うのに用いられた接続プロバイダに対し、当該IPアドレスを当該日時に割り当てていた契約者の氏名及び住所の開示を求めることになります。
発信者情報開示請求という制度が動き出したとき、匿名電子掲示板とファイル共有ソフトの全盛期であり、コンテンツプロバイダが発信者の個人情報などもっているわけがないということが大前提となっていました。そのため、コンテンツプロバイダへのIPアドレス&投稿日時の開示請求→接続プロバイダへの契約者情報の開示請求という二段階の発信者情報開示請求を行うことが当然のことだと考えられてきました。
しかし、最近流行っているプラットフォームには、利用者にあらかじめアカウントを取得させるものが多くなってきており、また、第三者による乗っ取り等を防ぐために携帯電話番号等を登録させるものが増えてきています。他方、あらかじめ与えられたアカウントを用いてシステムにログインしたユーザーのみが投稿できるサービスにおいては、個々の投稿に関してはアクセスログを残さない事業者も増えてきています。この場合、ログインのためにシステムにアカウント名とパスワードを送信するのに用いられたに過ぎない経由プロバイダに対し、当該ログイン日時にログイン時のIPアドレスを割り当てた契約者の氏名・住所の開示を求めることができるかは、裁判所の判断が割れているというのが現状です(この点に関しては、令和3年の法改正で対応する予定です。)。
また、第一段階の発信者情報開示仮処分で時間がかかってしまうと、ついに投稿時のIPアドレスの開示を受けた時点で既に接続プロバイダが投稿時分のアクセスログを消去してしまっており、第二段階目の発信者情報開示請求が空振りに終わる危険があります(この点も令和3年改正で対応する予定です。)
このため、プラットフォーム事業者としてのコンテンツプロバイダに対し、利用者の氏名や電子メールアドレス、携帯電話番号等の開示を直接請求することが最適解というケースも増えてきます。
現在、投稿/ログインの日時及び投稿/ログイン時のIPアドレスの開示を求めるだけであれば、発信者情報開示仮処分申立てで対処することができます。これに対し、発信者の氏名・住所や電子メールアドレス等の開示を求める場合、訴訟を提起する必要があります。
発信者の氏名・住所等の特定を果たした場合、その情報を用いて損害賠償請求訴訟を提起したり、あるいは、内容証明郵便を送りつけるなどして任意に賠償するように求めたりすることができます。
ただし、発信者に対する制裁等を目的として、特定のアカウント保有者の氏名として、当該発信者の氏名をウェブ上で公開する等すると、逆に、プライバシー権侵害に当たるとして損害賠償請求等をされる危険があります。
なお、令和3年改正法が施行された場合に、Twitter上での名誉毀損について、どのように発信者情報開示命令の申し立てをしたらよいのか、紙芝居を作っておきました。
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