主文同旨の判決。
「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決。
控訴人の主張は「別紙フィルム目録記載のフィルムには、後記のように、青森県三沢市の市勢映画製作のため、控訴人が右映画の監督として自ら撮影し、又はカメラマンに撮影させた映像が収録されている。右映像は著作物であり、その著作権は控訴人に帰属する。しかるに、被控訴人は控訴人の右著作権を争うので、その確認を求める。」というにある。
1 三沢市は、昭和五八年一二月一九日、委託者を三沢市とし、受託者を被控訴人として、「市勢編」と「歴史・文化編」の二編からなる「青い海のまちみさわ」なる題名の三沢市勢映画の製作業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。控訴人は、著作権法二九条一項により、右三沢市勢映画の製作に参加することを約した。
右の「市勢編」、「歴史・文化編」の二編は二つの別個の映画であり、控訴人はそれぞれの映画の製作について参加することを約したのである。
控訴人は、「市勢編」については、白木省司の作成したシナリオに基づき、「歴史・文化編」については、自ら作成したシナリオに基づき、いずれも監督として、それぞれ撮影対象を調査・特定し、撮影現場において、カメラマン加藤正義に具体的指示を与えて撮影させ、一部については自ら撮影した。
別紙フィルム目録記載の撮影済みフィルム(以下「本件フィルム」という。)は、「歴史・文化編」のために撮影されたフィルムのうち、映画製作者を被控訴人とする後記2の映画「蒼い空と碧い海のまち…三沢市の軌跡」に転用された部分を除いたもので、その内容は別紙未編集フィルム・内容一覧表記載のとおりである。
控訴人は、前記のとおり、本件フィルムによる映像撮影の全体的形成に寄与したものであるから、撮影済みの本件フィルムに収録された映像著作物の著作者であり、かつ著作権者である。
2 昭和六○年六月、前記三沢市勢映画の「市勢編」は映画「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」として完成されたが、「歴史・文化編」のために撮影されたフィルムのうち、江戸時代の三沢市周辺の絵図(完成映画「三沢市の軌跡」の台本(甲第一四考証)二ページ)、地図(同三ぺージ)、古地図(同ぺージ)の部分のみが右映画に転用されただけで、被控訴人が「歴史・文化編」の製作意思を放棄し、同映画が未完成に終わったので、残余のフィルム、すなわち本件フィルムはNGフィルム選別、シナリオに従った粗編集、細編集、音づけ等の映画製作過程を経ることなく現在に及んでいる。
3 著作権法二九条一項による控訴人の前記三沢市勢映画の「歴史・文化編」の製作の参加約束は、被控訴人が同映画を完成し三沢市に納入することを停止条件とするか、又は解除条件とするものであるところ、前記2のとおり、被控訴人は「歴史・文化編」を完成する意思を放棄しているのであるから、同映画が完成しないことが確定した。このように、控訴人の右参加約束は効力が生じないか、失効したから、被控訴人は映画製作者として、本件フィルムに収録された映像の著作権を取得せず、同著作権はいぜんとしてその著作者である控訴人に帰属する。
二 請求の原因に対する認否及ぴ被控訴人の主張
1 請求の原因1のうちは認める。同は否認する。同のうち、控訴人が「歴史・文化編」について監督として映画製作に参加したことは認める。同は認める。同は否認する。但し、映画のための撮影済みフィルムが著作物であることは認める。同2のうち、昭和六○年六月、三沢市勢映画は映画「蒼い空と碧い海のまち──三沢市の軌跡」として完成したこと、「歴史・文化編」のために撮影されたフィルムのうち、控訴人主張の部分が映画「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」に転用されたことは認め、その余は争う。同3は争う。
2 本件契約によれば、映画は「市勢編」と「歴史・文化編」、それぞれ概ね長さ三三○メートル、映写時間三○分程度として、全体として一個の映画として仕上げることが合意されていたが、「歴史・文化編」の完成が見込めなくなったので、三沢市は被控訴人に対し、当初予定されていた「市勢編」と「歴史・文化編」を一編にまとめるように要請した。被控訴人は、同要請に従い再編を一編にまとめ、映写時間約一時間の映画に完成し、「蒼い空と碧い海のまち──三沢市の軌跡」として、昭和六○年六月一五日、三沢市に納入し、ここに、本件契約の履行を完了した。
3 本件契約は、「市勢編」と「歴史・文化編」という独立した二個の映画の製作に関するものではない。それは一つの映画の一部と二部であって全体として一個の映画に関するものである。前記のように「歴史・文化編」の完成が見込めなくなり、一編のみからなる「蒼い空と碧い海のまち──三沢市の軌跡」と題する映画となったものであるとしても、同映画の著作物について、完成映画に関する部分は勿論、編集残りフィルム、便用残りフィルム(未編集フィルムではない。)、NGフィルムの全ての著作物の著作権は、控訴人が前記のように参加約束をしている以上、著作権法二九条一項により、その製作の当初から原始的に被控訴人に帰属する。よって、前記映画の製作のため撮影された本件フィルムの著作権は、その撮影に係る映像が同映画に使用されなかったとしても、映画の著作物として、映画製作者としての被控訴人に帰属するものである。
一 昭和五八年一二月一九日に被控訴人と三沢市とが「市勢編」と「歴史・文化編」の二編(この「二編」の意義は後に検討する。)からなる本件契約を締結し、控訴人は、被控訴人が右契約に基づき製作する右三沢市勢映画の製作に監督として参加することを約したこと、控訴人が「歴史・文化編」について監督として映画製作に参加したこと、右映画の「歴史・文化編」のために撮影されたフィルムのうち、江戸時代の三沢市周辺の絵図(完成映画「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」の台本二ページ)、地図(同三ページ)、古地図(同ページ)の部分のみが映画「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」に転用され、残余の撮影済みフィルムが別紙フィルム目録記載のフィルム、すなわち本件フィルムであり、その内容が別紙未編集フィルム・内容一覧表のとおりであること、「市勢編」と「歴史・文化編」の二編の製作が右契約では予定されていたが、昭和六〇年六月、製作者を被控訴人とする一編の映画「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」として完成されたことは、当事者間に争いがない。
二1 前記一の争いのない事実、《証拠略》を総合すれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断略》
控訴人は、昭和四二年から各種映画の監督として現在に至つているものであるところ、昭和五五年から二年にわたり青森県小川原湖の自然を主題にした記録映画「湖の四季−小川原湖」の監督に従事して以来、同湖とその周辺の住民との縄文時代以来現在までの一万年にわたる湖共同体の歴史に興味を持ち、同湖の東岸地区(三沢市)と湖との関係一万年史を明治時代を境に二編に分割した記録映画を企画し、該企画書及びシナリオ原案を三沢市教育委員会に提出した。一方、三沢市も飛行機ミス・ビードル号の太平洋無着陸横断飛行の時の着陸の瞬間(昭和六年一〇月四日)を写した記録フィルムがアメリカ合衆国ウェナッチ市から三沢市に贈呈されたことを機縁として、右飛行の離陸地点となつた三沢市の近代史と市勢現況の記録映画の制作の発注を企画中であつたが、三沢市の企画による記録映画は控訴人の右企画の第二編の現況編と重複する内容であつた。そこで、三沢市は、記録映画を控訴人が企画する二編構成として発注することとなつたが、控訴人が個人であつたため、地方自治体である三沢市と直接契約することは相当でないとして、法人である被控訴人との間で、昭和五八年一二月一九日、「市勢編」と「歴史・文化編」の二編からなる三沢市勢映画の製作業務委託契約(本件契約)を締結し、控訴人は被控訴人との間で監督として右映画の製作に参加する契約を締結した。本件契約によれば、右映画は「(仮題)青い海のまち みさわ」(本件契約書添付の特記仕様書第一条)と一個の題名とされているが、その内容について「本業務は、三沢市勢全般を映像記録として残すため、三沢市勢映画製作委員会の構想に基づき、「市勢編」と「歴史・文化編」の映画製作を行なうものである。」(同第四条)とされ、さらに、各編の作業内容のうち、撮影内容に関し、「1市勢編 三沢市の位置と都市形成の推移 県南の中核都市としての可能性と現市勢(生活環境、福祉、産業経済、教育文化等) 三沢市総合開発計画の提示 三沢市の未来像 その他2 歴史・文化編 三沢市の歴史文化を育んだ自然環境の特徴 縄文時代から各時代における歴史的描写 三沢市の文化財 市民文化活動の展開 その他」(同第五条)とされ、その編集に関し、「仕上時の仕上りの長さは、各編おおむね三三〇メートル(三〇分程度)とする。」(同第七条)とされている。
本件契約の契約金額は、「市勢編」と「歴史・文化編」の二編をまとめたものとなつているが、契約金額の算出根拠となる見積書は、それぞれに分けた形で「市勢編」につき八九三万円、「歴史・文化編」につき八七四万円として別々に被控訴人により作成され、三沢市に提出された。
「市勢編」については、「三沢市勢映画 新みさわ風土記(仮題)現況記録」と題して、白木省司が執筆し、三沢市勢映画製作委員会が承認したシナリオにより、「歴史・文化編」については、「三沢市勢映画 新みさわ風土記(仮題)歴史と文化」と題して、控訴人が執筆し、三沢市勢映画製作委員会が承認したシナリオにより、いずれも、控訴人が監督として各編のシーン、テーマ、場面等を選択し決定し、カメラマン加藤正義に指示して撮影させ、自らも撮影をした。本件フィルムは、「歴史・文化編」のために撮影されたもののうち、前記のとおり、「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」に使用された部分を除くものでその内容は別紙未編集フィルム・内容一覧表のとおりである。
控訴人による前記二編の映画のためのフィルムによる撮影は約一年間の予定であつたが、一年経過後、「市勢編」については、主な場面の撮影は九割程度終了したものの、「歴史・文化編」については、控訴人が撮影を望んでいた縄文時代末期、弥生時代、奈良時代、平安時代の遺跡の発掘が地権者の反対でできなくなつたため、当初の予定の五割程度の撮影しかできなかつた。そこで、三沢市は「市勢編」と「歴史・文化編」をまとめて一編の映画にすることを提案したが、控訴人は、「歴史・文化編」のストーリー構成上空白となつていた部分の手掛かりとなるべき右遺跡の発掘中止により、「歴史・文化編」のストーリー構成が完成できなくなつたため、当初予定された三沢市と小川原湖の縄文時代から現代に至る一万年にわたる歴史を展開する形で「歴史・文化編」を取り入れた映画の製作はできなくなつたとして、両編をまとめて一編の映画とする旨の右提案を拒絶した。そこで、三沢市は、代案として、「歴史・文化編」の製作を中止し、「市勢編」のために撮影されたフィルムが上映予定時間の五倍程度もあつたので、これを利用して、前記のとおり三〇分構成の予定であつた「市勢編」を一時間構成の映画とすることを提案し、控訴人、被控訴人もこれを受け入れ、かくて、「市勢編」、「歴史・文化編」を各三〇分程度とする映画を製作するとの内容の当初の本件契約は、「市勢編」を一時間構成の映画とすることに変更され、これにより、当初予定されていた「歴史・文化編」は映画として製作されないことが確定した。右一時間構成の映画については、白木省司が改めて執筆した「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」と題するシナリオ(甲第一四号証)に沿つて、控訴人が監督として「市勢編」のために撮影したフィルムが使用され、「歴史・文化編」のために撮影されたフィルムは前記当事者間に争いのない江戸時代の三沢市周辺の絵図、地図、古地図の部分のみ(時間にして三分弱程度、フィルムの長さにして一〇〇フィート程度)が使用されたに過ぎず、「歴史・文化編」のために撮影された残余のフィルム、すなわち本件フィルムはNGフィルム選別、シナリオに従つた粗編集、細編集、音づけ等の映画製作過程に必要な作業を経ることなく未編集の状態におかれたまま現在に至つている。このようにして、上映時間一時間の「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」が完成され、昭和六〇年六月一五日、三沢市は同映画を変更された本件契約の履行としてその納入を受けた。
映画「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」がこのような経緯で製作されたため、右映画は本件契約に係る当初の「市勢編」の引き延ばしであると報道され、右報道を契機として、三沢市議会で、契約で定められた「歴史・文化編」が完成されないのは、契約不履行であり、何らかの手続をとるべきでないかと問題にされた。これに対して、三沢市は、「歴史・文化編」の一部が、完成された映画に使用され、また、未使用部分も別に保管され、利用する機会が留保されているとして、契約不履行の問題はないと回答した。
「歴史・文化編」のシナリオは、小川原湖の遺跡、自然の変遷から江戸時代までを描き、明治時代以降の三沢市の近代史を描く「市勢編」とつながりをもたせているが、「歴史・文化編」に使用するために右シナリオに沿つて撮影された本件フィルムの映像内容は、専ら、石器、土器、化石、貝塚、遺跡を中心とした古代の律令体制に至るまでの小川原湖及びその周辺住民の歴史に関するものであつて、江戸時代から明治時代そして現代に至るまでの三沢市の発展をテーマとして製作された「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」とは内容的に繋がりのないものである。
2 前記1認定の事実によれば、本件契約関係書類には「市勢編」と「歴史・文化編」の「映画製作を行なう」旨が明記され、その各編ごとに合意された撮影内容、撮影時間が示され、その内容からみて、また、当初製作が予定された各編のシナリオを対比すると、前記のテーマが都市としての三沢市が形成されるに至つた発展の歴史、現代における生活環境等の現市勢及び総合開発計画等による将来を展望した三沢市のいわゆる未来像であるのに対し、後者のテーマが歴史文化を育んだ自然環境、縄文時代にまで遡り、土器、貝塚、遺跡、古文書等による各時代の歴史的描写等主として歴史、文化の面から江戸時代に至るまでの三沢市を振り返つて捉えようとするものであつて、両編は一万年にたる三沢市の姿を描く点において連続性あるものといえるが、テーマ、時代区分、撮影対象を異にしており、さらに前記1認定のとおり、「市勢編」及び「歴史・文化編」について別途に見積書が提出されていることからみても、また、前記1認定のとおり「歴史・文化編」のシナリオ及びこれに使用するために撮影された本件フィルムと「市勢編」を一時間構成とした「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」が内容的に繋がらないことからみても、両者は、「青い海のまち みさわ」(仮題)の一つ題名のもとに製作が予定されたとはいえ、別個独立の映画として企画されたものと認めるのが相当である。したがつて、控訴人の参加約束は、「市勢編」と「歴史・文化編」の各編ごとになされたものというべきである。そして、前記1認定のとおり、本件契約は変更され、右変更された合意に沿つたものとして「市勢編」を主体とする一時間構成の「蒼い空と碧い海のまち−三沢市の軌跡」が製作されて三沢市に納入され契約は終了したものとされたのであるから、これにより当初本件契約において製作が合意され、控訴人が「市勢編」とは別途に参加約束をした「歴史・文化編」は、映画として製作しないことが確定したものというほかない。
被控訴人は、この点に関し、本件契約が対象としたのは、「市勢編」、「歴史・文化編」の二個の独立した映画ではなく、全体として一個の映画であり、各編は一個の映画の一部と二部というべきものである旨主張する。仮に被控訴人のように形式的に本件契約を解釈したとしても、前記のように「市勢編」と「歴史・文化編」のテーマ、時代区分、撮影対象が異なることに変わりはないのであり、両者が実質的に別個であることは否定し得ないところであるから、控訴人の参加約束、本件契約の変更、映画としての完成、未完成についても実質的に検討する限り、当裁判所の前記判断と結論において変わるところはないのである。そうであれば、本件契約について実体を直視して解釈するのが相当というべきであり、これに反する被控訴人の主張は採用できない。
3 ところで、被控訴人は、控訴人の参加約束により、著作権法二九条一項に基づき、本件フィルムに撮影収録された映像著作物の著作権を取得した旨主張するので、右主張に即して、右映像著作物の著作権の帰属について検討する。
著作権法二九条一項により映画製作者が映画の著作物の著作権を取得するためには、いうまでもなく著作物と認められるに足りる映画が完成することが必要であるから、参加約束のみによつて未だ完成されていない映画について製作者が著作権を取得することはない。しかし、そのことは、当初予定されていた映画が予定どおり完成しなければならないことまでを意味するものではなく、撮影済みフィルムを編集するなど、映画製作過程に入つた後、製作が途中で打ち切られてもその時点までに製作されたものに創作性が認められれば、その限りで製作者は著作権を取得する。この場合、その映画製作のためにフィルムに撮影収録された映像のうち、未使用部分の著作権の帰属が問題となる(既使用部分は映画に化体されその内容となつているのであるから、同部分の映像著作権自体は存在しないものと考える。)。しかし、少なくとも、本件において、本件契約の変更により控訴人が参加約束をした「歴史・文化編」については、映像を撮影収録した本件フィルムがNGフィルム選別、シナリオに従つた粗編集、細編集、音づけ等の映画製作過程を経ないまま未編集の状態で現在に及んでいることは前記1に認定したとおりであるから、結局本件フィルムに関する限り著作物と認めるに足りる映画は未だ存在しないものというべきである。そして、本件フィルムが撮影収録した映像の内容は別紙未編集フィルム・内容一覧表のとおりであることは当事者間に争いのないところであるが、それは単なる風景の描写とは異なるものと認められ、かつ前記のようなテーマを持つた映画「歴史・文化編」に使用されることを意図したものであることを勘案すれば、本件フィルムに撮影収録された映像は、それ自体で創作性、したがつて著作物性を備えたものというべきである(被控訴人も映画のための撮影済みフィルムの著作物性自体は争つていない。)。そうであれば、本件フィルムに撮影収録された映像著作物の著作権は、監督としてその撮影に関わつた著作者である控訴人にいぜん帰属するものといわなければならない。以上によれば、著作権法二九条一項を根拠とする被控訴人の著作権取得の主張は採用できない(控訴人は、自己が本件フィルムの著作者である理由として、参加約束に映画の完成を停止条件又はその未完成を解除条件とする条件が付せられており、「歴史・文化編」の製作中止により停止条件が不成就となり又は解除条件が成就した旨を主張するが、著作物としての映画が製作されたものと認められない以上製作者に著作権を認める余地はなく、いわば映画として著作物性の取得が著作権法二九条一項による著作権帰属の要件であり、控訴人はこの点を捉えて、映画の完成を停止条件と主張したものと解せられる。すなわち、控訴人は、被控訴人の主張に対する反論として、「歴史・文化編」が完成しなかつたことを理由に本件フィルムに撮影収録された映像の著作権がいぜん控訴人に帰属することを主張しているものであるから、右主張は理由がある。)。
三 以上のとおり、控訴人の本訴請求は理由があり、これを棄却した原判決は相当でない。よつて、原判決を取り消し、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第一八民事部
裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 浜崎浩一 裁判官 押切 瞳