平成九年(ネ)第三五八七号損害賠償等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成八年(ワ) 第一二二二一号)           

判    決

   

控訴人(原告)         コナミ株式会社
   右代表者代表取締役       上  月  景  正
   右訴訟代理人弁護士       柳  原  敏  夫
   被控訴人(被告)        スペックコンピュータ株式会社
   右代表者代表取締役       永  山     久
   右訴訟代理人弁護士       山  本  紀  夫
   同               山  本  智  子
   

          

主    文

   

一 原判決を次のとおり変更する。

1 被控訴人は、控訴人に対し、一一四万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年一二月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 控訴人のその余の請求を棄却する。

二 訴訟費用は第一・二審を通じてこれを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

三 この判決の第一項1は仮に執行することができる。


事実及び理由


第一 控訴の趣旨

一 原判決を次のとおり変更する。
二 被控訴人は、控訴人に対し、一〇一四万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年一二月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人は、朝日新聞(全国版)及び日本経済新聞(全国版)にそれぞれ一回ずつ原判決別紙目録記載の謝罪文を同別紙目録二記載の条件で掲載せよ。
四 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
五 第二項につき仮執行宣言


第二 事案の概要

 (以下、控訴人を「原告」・被控訴人を「被告」と略称する。)次に付加する他は、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」「第三 争点」「第四 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する(なお、本件ゲームソフトを「映画の著作物」とする点は後記のとおり改める。)。


【原告の当審主張】

一 著作者人格権としての同一性保持権の本質は、著作物が一般公衆に利用されるにあたって「著作物の内容の同一性」を侵されないということにあり、財産権としての著作権の本質が他人による著作物の無断利用を禁止することにあるのとは性格を異にしている。それゆえ、同一性保持権の侵害があったかどうかを判断するにあたっては、著作物が一般公衆に利用される一連のプロセスの全過程を問題にして、そのいずれかの段階で、「著作物の内容の同一性」を損なうような行為が行なわれたかどうかを吟味しなければならない。
 そして、改変があったかどうかは、表現形式の同一性ではなく、より広い表現内容の同一性で判断すべきであるから、「表現形式上の本質的特徴部分に関する改変」であることも必要ない。一字一句の訂正も改行もしてはいけないのが原則である。
 同一性保持権を定めた著作権法二〇条一項が著作物のみならず本来著作物の内容ではない「その題号」の同一性までをも保護しようとした趣旨に照らせば、同一性保持権が保護する対象は著作物の表現内容全部及びその題名であって、「表現形式上の本質的特徴部分」に限定するものでないことは明らかである。

二 本件ゲームソフトの著作物性
 本件ゲームソフトは著作権法一〇条に例示された著作物のいずれにも含まれない新たなジャンルの著作物、すなわち、純然たる「映画著作物」にとどまらず、単なる「プログラム著作物」にもとどまらない、いわば「ゲームソフト著作物」とでもいうべき性格の著作物である。つまり、本件ゲームソフトの著作物としての性格は、ゲームソフト制作において盛り込まれたゲームの内容全てのものを網羅したものであり、その具体的な内容は、「映画著作物」にゲームソフト固有の内容、すなわち、(イ)「ゲームバランス」と(ロ)「インタラクティブ性」の二つをプラスしたものである。(原審では、本件ゲームソフトの著作物としての性格を「映画の著作物」と主張したが、右のとおり改める。)
 従って、本件ゲームソフトの内容は、小説や映画や音楽などのように予め一義的に固定されておらず、その展開の仕方に一定の幅があるため、そこに加えられた一見改変と見える行為が果してゲームソフト著作物の内容をなす「ゲーム展開の一定の幅」を逸脱したものか、それともその幅の範囲内にすぎないものか、を吟味しなければならない。

三 本件における改変の具体的な態様

【本件メモリーカードのブロック1〜11】

1 主人公の人物設定に関する改変

 一九九五年四月九日時点におけるパラメータの数値の変更
 本件メモリーカードのブロック1〜11に収められたデータは、九五年四月九日(日)の夜の時点における九つのパラメータの数値である。原告作品では、九五年四月四日のゲームスタート時点から九五年四月九日まで、平日四日分と休日一日分のコマンドを入力できるが、その結果、パラメータの値は最大で124.5(体調)にしかならない。
 しかるに、本件メモリーカードのブロック1〜11によれば、九五年四月九日の夜の時点における九つのパラメータの数値を、例えばブロック1なら、体調999・文系999・理系999・芸術999・運動999・雑学999・容姿999・根性999・ストレス0というふうに変更することができる。
 人物設定の改変「登場人物の設定」とは、《人物を設定し、それに性格、経歴、境遇、容姿、思想、道徳、経済観念等を与えて、人物像を形成》することをいい、映画やドラマやゲームソフトにおける基本的な要素として極めて重要なものである。
 この「人物設定」は、もともと《興味深く事件を中心とした筋の運び方》という動的な展開のことを意味する「ストーリー」とは別物であるが、《ストーリーとは、テーマを観客に伝えるための直接の媒体であり、そのようなストーリーの機能を具体化し肉づけし強化するのが、登場人物に課せられた役割である。従って、テーマとストーリーと登場人物は不可分な関係にある》。つまり、人物設定を変えると、ストーリーも変わらざるを得ないという密接不可分な関係にある。
 そして、本件ゲームソフトは恋愛シミュレーションゲームであり、そこで登場する主人公の人物設定をどのようなものにするかは、ゲームのストーリー展開ひいてはゲームの面白さを決定する極めて重要な要素である。
 数値による主人公の人物設定本件ゲームソフトの主人公の人物設定は、体調・文系・理系・芸術・運動・雑学・容姿・根性・ストレスといった九つのパラメータの数値で現わされている。
 「人物の設定」に限らず、そもそも「或る状態」をいくつかのデータ(数値)の組み合わせで表現することは、「多次元の量」「数値化」といって、数学の世界では既に常套手段である。
 例えば、生徒の体格という状態を表すのに、[身長、体重、胸囲、座高、‥‥]という数値の組み合わせで表現し、ある時刻のある場所の気象状態を表すのに、[気温、気圧、風速、湿度、‥‥]という数値の組み合わせで表現するという具合である。また、野球の選手の人物の状態をあらわすのに、[打数、得点、安打、打点、三振、四死球、犠打、盗塁、失策]の九つの要素の組み合せを表わした選手の試合記録をみることで、各選手の状態というものがよく分かるし、どういう個性を持った選手であるかということも分かる。
 これと同じような意味で、本件ゲームソフトにおいて、主人公の右の九つのパラメータの数値の組み合わせを眺めれば、主人公の状態がどういうものか、あるいは、この主人公はどういった個性の持ち主かも分かる。その意味で、この主人公の九つのパラメータの数値の組み合わせは、まさしく、その主人公の人物の特徴を示す設定として機能している。
 以上のことから、本件ゲームソフトの右九つのパラメータの数値を変更することは、まさしく本件ゲームソフトの主人公の人物設定を改変するものにほかならない。
 もともと本件ゲームソフトの内容は、高校三年間プレイした結果、主人公の内面(ステイタス)と外面(女生徒とのつきあい)にそれなりの個性が刻印され、その刻印された個性に応じてエンディングが与えられるという仕組みになっている。
 従って、初期設定として、高校入学時における主人公の九つのパラメータの数値が体調100・文系40・理系40・芸術40・運動40・雑学32・容姿60・根性5・ストレス0と決められたことは、ゲームのスタートにおける主人公の状態は、特定の個性を帯びていてはならず、かつ、これからのプレイの仕方如何によってあらゆる方向の個性を発揮できる可能性を秘めたものであることを意味する。
 ところが、例のパラメータの数値が
   ストレス0以外全て999
 になったことは、九五年七月一〇日の最初の期末試験が、何一つ勉学を行わなくても一位となることから明らかなように、成績ひとつ取っても入学時から成績がずば抜けて優秀という設定を意味する。
 これが本件ゲーム制作者が苦労して決定した前述の主人公の個性の設定を無意味にするような重大な改変に該当するものであることはいうまでもない。
 のみならず、本件においては、この主人公の人物設定に関する改変が、さらに、本件ゲームソフトの他の内容についても重大な改変をもたらしている。

2 「ゲームバランス」というゲームソフトに固有の「ストーリー」の要素の改変

 本件ゲームソフトの本来のゲーム展開
 本件のゲーム展開は、高校入学時に、一方で主人公自身の内面の状態を示す九つの表パラメータの値が決められており、他方で、主人公が女生徒からどう思われているかという状態を示す三つの隠しパラメータの値が決められていて、そこから出発して、高校三年間の間に、一方で、表パラメータの各数値を一定値に上昇するようにバランスを取りながら工夫し、他方で、隠しパラメータ(ときめき度・友好度・傷心度の3つ)について、「藤崎詩織らとのデートの回数・中身、学校行事(学期末試験、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」が一定の数値に到達するように工夫し、この両方の条件を満たしたとき初めて、高校卒業式の日に藤崎詩織らから愛の告白を受ける(ハッピーエンド)というものである。
 具体的には、例えば本命の藤崎詩織から愛の告白を得られるためには、(a)九つの表パラメータの値に関して、文系・理系・芸術・運動各130以上、雑学120以上、容姿・根性各100以上であること、(b)裏パラメータの値に関して、ときめき度80以上、友好度50以上、傷心度50以下、デート回数八回以上であること、の両方の条件をともに満たしていること、というふうに設定してある。
 そして、本件ゲームソフトには、もともと次のような二つのゲームバランスが存在する。
 表パラメータの値をまんべんなく上昇させるにあたってのゲームバランス
本件ゲームの本来の目的である本命の女生徒藤崎詩織から愛の告白を受けるためには、彼女の男性への理想が高いこともあって、成績優秀でしかもスポーツもでき容姿も端麗といった諸条件を満たすことが要求され、具体的には、前記のようなパラメータの数値を実現しなければならない。
 しかるに、あるコマンドを選択した場合、それによってあるパラメータの値だけがアップするわけではなく、ほかのパラメータの値も全て影響をうけ変動するように、しかも半分近くがマイナスに影響するように設定されている。例えば、文系のパラメータ値をアップするために文系学習のコマンドを選択すると、その結果、体調・運動・容姿・根性の値がダウンし、あるいは運動のパラメータ値をアップするために運動のコマンドを選択すると、その結果、体調・文系・理系・芸術・容姿の値がダウンする。
 そのため、勉学(文系・理系・芸術)のステイタスを上げようと思って、文系・理系・芸術系学習のコマンドばかり選択していると、片方で、運動のパラメータ値がどんどん下がってしまうことになり、逆にただ運動のコマンドばかり選択していると、今度は文系・理系・芸術のパラメータ値がどんどん下がることになる。このように、コマンドを選択した時のパラメータの変化の仕方には、勉学(文系・理系・芸術)と運動との間、あるいは勉学(文系・理系・芸術)と容姿との間、運動と容姿の間などに、それぞれ反対に影響しあう関係が設定されていて、とくに、ストレスを除くパラメータ値全てを一定値に上昇しなければならない「藤崎詩織」狙いの場合には、ジレンマに陥る。これがここでいうゲームバランスという意味である(とりあえずゲームバランスAという。)。そこで、プレイヤーは、このゲームバランスAを考慮しながら、まんべんなくコマンド選択の仕方を考え、実行していくことを要求される。こでいうゲームバランスという意味である(とりあえずゲームバランスBという。)。
 プレイヤーは、このようなゲームバランスBを考慮しながら、休日の朝に、表パラメータのコマンドを選択するか、それとも隠しパラメータのための電話・デートのコマンドを選択するのかを決断することが要求される。
 つまり、隠しパラメータの値を上げるために重要な出来事である女生徒とのデートに関するコマンドを実行できるのは休日の朝のみであるが、一方、表パラメータの数値を効率よく上げるにはやはり休日の朝に文系学習ほか七つの育成コマンドを選択するのが合理的である。ところが、本件ゲームソフトは、休日の朝に選択できるコマンドは一つだけと設定されている。それゆえ、プレイヤーは、このときどちらかしか選べない、という意味でゲームの進行状況を睨みながらバランスを取ることを余儀なくされるのであって、これもゲームバランスである。
 本件メモリーカードのブロック1〜11のデータが本件のゲームバランスに与える影響
(1) 例えば本件メモリーカードのブロック1によって、高校入学直後(九五年四月九日)における主人公の九つのパラメータの数値が
  ストレスが0以外全て 999
になったことが本件のゲームバランスにとっていかなる意味を帯びるかをみると、藤崎詩織から愛の告白を得られるために必要な二つの条件のうちの九つの表パラメータの値に関して、文系・理系・芸術・運動各130以上、雑学120以上、容姿・根性各100以上であることが優に満たされてしまい、よほどのことがない限り、これらのパラメータが三年間で999から右の数値以下まで下がることはありえない。なぜなら、最もパラメータの値がダウンするのは、理系学習コマンド(運動が平日一日当たりマイナス0.75)か休養コマンド(容姿が平日一日当たりマイナス0.75)を選択したときであるが、仮に三年間の平日を全て(八〇一日分)これらのコマンドのいずれかを選択し続けたとしても、運動にしても休養にしてもその値は、計算上、999−0.75×801=398.25で398までしか下がらないからである。よって、プレイヤーは、残る隠しパラメータに関する条件だけに専念すればよいことになる。
(ア) ゲームバランスAについて
 右のように、本件メモリーカードによって、九つの表パラメータの値を上げること自体がゲームの展開上必要なくなってしまうため、この九つの表パラメータの値を上げるにあたってプレイヤーをジレンマに追い込むために設定したゲームバランスAというものが根底から損なわれる。
(イ) ゲームバランスBについて
 さらに、本件メモリーカードによって、プレイヤーは、もっぱら隠しパラメータに関する条件だけに専念すればよいから、もはや休日の朝に、表パラメータのコマンドを選ぶか、それとも隠しパラメータのための電話・デートのコマンドを選ぶかなどと悩むことも必要なくなり、本来設定されたゲームバランスBというものも根底から損なわれることになる。
(2) そして、このことは本件メモリーカードのブロック1についてのみならず、ほかのブロック2〜11についても妥当する。
 なぜなら、例えば、エンディングにおいて「片桐彩子」から愛の告白を得るためには表パラメータについて、
   芸術が120以上、容姿100以上
であることが必要であるところ、ブロック4に収められているデータは、体調999・文系0・理系0・芸術999・運動999・雑学999・容姿999・根性0・ストレス0であり、本件メモリーカードのパッケージの表に《それぞれのキャラクタに合ったステイタスでゲームをプレイできます》と記載されているとおり、これによって右の「芸術が120以上、容姿100以上」という条件が優に満たされてしまい、よほどのことがない限り、芸術と容姿が三年間で999から右の数値以下に下がることはないからである(理由は前述と同じ)。よって、この場合もブロック1のときと同様、プレイヤーは、残る隠しパラメータに関する条件だけに専念すればよいことになる。
 結論
 以上から、本件メモリーカードのブロック1〜11によって、藤崎詩織ほか各女生徒について必要な表パラメータに関する条件は満たされ、その結果、原告が本件ゲームソフト制作にあたって設定したゲームバランスAとゲームバランスBが根底から損なわれてしまったこと、すなわちゲームバランスAとゲームバランスBが改変されたことが明らかである。
 以上のように、「ゲームバランス」の意味は文字通りゲームの進行に関するバランスのことで、この「ゲームバランス」こそゲームソフトの面白さを決定する鍵ともいうべき核心的な要素にほからない。
 そして、「ゲームバランス」とは、ゲームの進行・構成に関する制作者各人の表現上の工夫のことであり、直接目には見えない制作者各人の表現上の工夫という意味で、内面的表現形式のひとつということができる。
 これに対し、これまで映画やドラマの進行・構成に関する基本的な概念であって、映画やドラマの面白さを決定する基本であり、かつ映画・ドラマの内面的表現形式であるのがほかならぬ「ストーリー」であった。
 ここから、「ゲームバランス」とはゲームソフトの背骨である「ストーリー」の要素のひとつであり、それがゲームソフトに固有の「ストーリー」の中核的な要素であるということができ、本件メモリーカードによって右「ストーリー」が改変されたことが明らかである。

3 個々の出来事に関する改変
 主人公の人物設定に関する改変が本件ゲームソフト著作物全体の内容にいかなる改変をもたらしたかを見るとき、「目で見て確かめられる改変」として次のようなものを挙げることができる。

 「女生徒との最初の出会いの時期」の改変
 本件ゲームソフト著作物は、進行に応じて、様々な女生徒が主人公の前に登場するが、その際、主人公の各パラメータの数値が一定値に到達すると、そこで初めてそれにふさわしい女生徒が画面上に登場し、主人公と出会うという設定になっている。例えば、如月未緒という女生徒であれば、「プレイヤーが知り合っている女生徒がゼロの場合、文系のパラメータが55以上(知り合っている女生徒が一人以上の場合ならば、文系のパラメータが75以上)で、文系コマンドを選択したときに三分の一の確率で登場」という設定になっている。つまり、本件ゲームソフト著作物では、登場する女生徒に応じて、必要なパラメータの項目がちがっている。その結果、一年生の五月の段階で出会いが起きる女生徒の数は、どんなに工夫しても三人より多くならないようになっている。これが「女生徒との最初の出会いの時期」に関する本来のゲーム展開の幅である。
 ところが、本件メモリーカードの例えばブロック1により、主人公のステイタスは九五年四月九日時点においてストレスを除いて全て999に変更されてしまうから、パラメータの数値を上げるというプレイをするまでもなく、女生徒が画面上に登場することになってしまう。その結果、一年生の五月の段階で出会いが起きる女生徒の数は、最大六人まで可能となる。以上のことから、本件メモリーカードの少なくともブロック1によって実現された「女生徒との最初の出会いの時期」に関するゲーム展開は、本来の「ゲーム展開の幅」を逸脱したものにほかならない。従って、本件メモリーカードのブロック1により、「女生徒との最初の出会いの時期」に関して改変されたことが明らかである。
 右改変の意味するもの
 「女生徒との最初の出会い」というのは、実際に画面上、その女生徒が現われ、主人公に向かって話しかけるという意味で、まさしくゲームに仕組まれた目に見える出来事のひとつにほかならない。その意味で、これは「目に見えない」内面的表現形式である「ストーリー」の要素というより、「目に見える」外面的表現形式である個々の出来事というべきである。
 また、「女生徒との最初の出会いの時期」が、本件ゲームの内容上もつ意味は、この「女生徒との最初の出会い」がないと、それ以後、その女生徒とのデートなどができず、そのため隠しパラメータに関する条件を満たすことができない。その意味で、この出会いの時期が何時の時点になるかは極めて重要なことであり、ゲーム制作者は、女生徒によって出会いの条件となるパラメータの種類を異にし、かつ、例えば如月未緒なら文系のパラメータが55以上であればよいのに対し、紐緒結奈なら理系のパラメータが60以上なければならない、といったふうに、女生徒によって登場の条件に難易度を設けたり、さらに前述した通り、一年生の五月の段階で出会いが起きる女生徒の数は、どんなに工夫しても三人より多くならないように設定してある。
 ところが、本件メモリーカードのブロック1により、どの「女生徒との最初の出会い」も全て高校一年の五月以降に直ちに実現できるようになり、ゲーム制作者が仕組んだ出会いの条件を無意味にしてしまうものである。その意味で、これもまた重大な改変である。

4 結論
 以上から、本件メモリーカードのブロック1〜11に収められているデータにより、本件ゲームソフト著作物の「主人公の人物設定に関する改変」「ゲームバランスに関する改変」及び「個々の出来事に関する改変」が認められることが明らかとなった。

【本件メモリーカードのブロック12、13】

1 主人公の人物設定の改変

 九八年二月二二日及び同月二五日時点におけるパラメータの数値の変更
 本件メモリーカードのブロック12、13には、九八年二月二二日(ブロック12)及び九八年二月二五日(ブロック13)の時点における九つのパラメータの数値が収められている。
 本件ゲームソフトの九八年二月二二日及び九八年二月二五日の時点における九つのパラメータの数値は、本件メモリーカードのブロック12、13によって、例えばブロック13なら体調999・文系998・理系998・芸術998・運動997・雑学894・容姿868・根性987・ストレス0というふうに変更されている。
 この点、本件ゲームソフトにつき、高校一年生の九五年四月四日からスタートして高校三年の九八年三月一日の卒業式の日までの三年間で、右ブロック13のように、ストレス以外の八つのパラメータの値を999にできるかぎり近づけることは最大限どこまで可能か、を計算上検証した結果を見ると、最後の九七年三月一日時点の結果は、体調378・文系0・理系0・芸術0・運動999・雑学733・容姿366・根性815・ストレス0であり、従って、ブロック13のような数値を本来のゲーム展開から実現することは到底不可能であることが明白である。
 同様に、ブロック12に収められたパラメータの数値である体調999・文系998・理系995・芸術998・運動998・雑学873・容姿849・根性973・ストレス0を本来のゲームの展開上実現することもまた不可能であることが明らかである。
 従って、本件メモリーカードのブロック12、13によって実現された九八年二月二二日(ブロック12)及び九八年二月二五日(ブロック13)における九つのパラメータの数値は、どちらも同日における本来の「ゲーム展開の幅」を逸脱したものにほかならない。
 改変の意味(人物設定の改変)
 右九つのパラメータの数値をめぐる改変は、本件メモリーカードのブロック1〜11で前述した通り、本件ゲームソフト著作物の主人公の人物設定を改変するものにほかならない。
 のみならず、本件において、本件メモリーカードのブロック12、13により、ゲームがいきなり卒業一週間前の九八年二月二二日及び同月二五日の時点から始まることである。このことが、さらに、本件ゲームソフトの他の内容についても重大な改変をもたらしている。

2 卒業一週間前の九八年二月二二日及び同月二五日の時点から始まることについて(「ストーリー」の削除)
 本来、本件ゲームソフトは「ストーリー」として高校一年の入学から高校三年の卒業まで三年間を設定してあり、ゲーム制作者としては、あくまでもその三年間という期間の中でプレイヤーに様々な経験をしてもらい、楽しんでもらうように様々な設定を工夫してある。ところが、本件メモリーカードのブロック12、13により、その「ストーリー」がほぼ全部削られ、いきなり卒業一週間前に飛んでしまうことになる。これはゲーム制作者が設定したゲームの「ストーリー」という基本的要素のうち「冒頭から卒業一週間前までのストーリー」を削除するものであって、著作物の基本的な内容に関する重大な改変にほかならない。
 その意味で、映画において、いきなりラストシーンから上映(あるいは放送、ビデオ制作)することが「ストーリー」に関する重大な改変であるとして同一性保持権の侵害であるのと同様、本件もまた「ストーリー」に関する同一性保持権の侵害である。
 もっとも、被告は、映画の場合と違い、ゲームソフトの場合はこれを否定する。なぜなら、それは、劇映画のストーリーが完全に固定されているのに対し、本件のようなシミュレーションゲームの場合は、ストーリーは固定されているわけではなく、プレイヤーの主体的な参加、選択が重要な要素になり、そこに多種多様な展開が予定されているのであるからであるという。
 しかし、これは完全な誤解というほかない。なぜなら、ここで原告が問題にしているのは本件ゲームソフトが予め設定している高校三年間という「ストーリー」の時間のことであり、この時間たるや三年間として完全に固定されていて、プレイヤーの参加、選択によって変更する余地のないものだからである。また、本件ゲームソフトにはそれなりに多種多様な展開が予定されているとしても、ゲーム制作者としてはいきなりラスト寸前からゲームが始まるような、本件ゲームの面白さを骨抜きにする荒唐無稽な「展開」を予定した覚えは全くないからである。

3 卒業一週間前の九八年二月二二日及び同月二五日の時点から始まることについて(「インタラクティブ」の削除)

 映画・音楽・小説といった「伝統的著作物の鑑賞の仕方」においては、作者が鑑賞者(観客・読者)に対して作品を一方的に提供するという一方向のものであったのに対して、本件における「インタラクティブ」の意義は、「ゲームソフトにおいて、プレイヤーの入力行為によって作品の内容が前に進行し、作品の具体的な内容が決定される」という著作物の新しい鑑賞の仕方である「双方向性」のことをいう。つまり、本件における「インタラクティブ」とは、ゲームソフトという著作物の鑑賞の仕方において、(イ)プレイヤーが選択しない限り、ゲームは前に進行しないこと、(ロ)プレイヤーが選択した内容に従ってゲームの進行の方向性が決まるということ、という受け手(プレイヤー)の積極的な参加のことを指す。
 これを著作者の立場からみたとき、「インタラクティブ」とは、単にゲームソフトの鑑賞においてプレイヤーの入力行為という「双方向性」のことを意味するのみならず、同時にそれはまた、そのような「双方向性」の仕組みをもったゲームソフトの内容をも意味する。
 本件ゲームソフトにおける「インタラクティブ」の内容
 本件ゲームソフトでのコマンド選択は、
(イ) 日曜・休日の朝に選択する「その日の行動」(選択肢は、a主人公のパラメータ値を上げるコマンド、b電話を行うコマンド、cデートをするコマンド、d部活動をするコマンドの四種)
(ロ) 日曜・休日の夜に選択する「明日から平日1週間分の行動」(主人公のパラメータ値を上げるコマンド選択のみ)
の二種類しかなく、プレイヤーがそのコマンド選択を実行しない限り、一日たりとも経過せず、ゲームの目的の達成を確認できる九八年三月一日に至らない。そして、プレイヤーの選択した内容に従ってゲームの内容の方向性が決まるものである。
 「インタラクティブ」と「ストーリー」の関係
 「インタラクティブ」という言葉は、これまで、主としてゲームのプレイヤーなどユーザーの立場から定義されてきたが、ゲームの制作者の立場からその内容を考えるとき、本件の「インタラクティブ」とは、コマンドの選択によって、本件ゲームの内容が実際に進行し、またコマンドの選択の仕方により本件ゲームの内容の方向性が個々具体的に決まるものであって、その意味で、「インタラクティブ」もまたゲームの進行・構成に関する制作者各人の表現上の工夫に他ならず、かつゲームの面白さを決定する鍵となるものであって(ゲーム制作者は常にプレイヤーがどう考え、入力装置であるコントローラを通じてどう反応してくるかを予測しながら、実際のゲームの内容を創り出している)、「インタラクティブ」とは常に具体的な内容、それゆえ、そこに個々の制作者の個性的表現というものが最も発揮されるものである。そして、この場合の表現上の工夫というのは、ゲームソフトのキャラクターやセリフや音楽などと異なり、直接目で見たり耳で聞いたりすることのできないもので、内面的表現形式のひとつである。
 従って、「インタラクティブ」は、映画やドラマの進行・構成に関する基本的な概念で映画やドラマの面白さを決定する基本となる内面的表現形式である「ストーリー」と同様に、ゲームソフトの「ストーリー」の中核的な要素であるということができる。
 本件メモリーカードのブロック12、13が「インタラクティブ」に与える影響
 卒業一週間前の九八年二月二二日及び同月二五日の時点からゲームがスタートするということは、とりもなおさず、本件ゲームの冒頭から卒業一週間前までの間、ゲームソフトの表現上の工夫として設定された本件の「インタラクティブ」を削除するものにほかならない。それゆえ、このようにゲームソフトの表現上の工夫である本件「インタラクティブ」を無断で削除することは、「著作物の内容の改変」に当たり、同一性保持権の侵害となる。

4 結論
 以上から、本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータにより、本件ゲームソフト著作物の「主人公の人物設定に関する改変」「ストーリーに関する改変」及び「インタラクティブに関する改変」が認められることが明らかである。

【被告の当審主張】

一 原告の当審主張は、本件メモリーカードを使用することによって、「ゲームバランス」が崩され、ゲームソフトにおいて「予め予定されたゲーム展開の幅」から逸脱し、その結果、映画著作物としての同一性保持権の侵害があったと結論づけるもののようであるが、現行著作権法の解釈として是認できない。
 原告の主張は、要するにプレイヤーはシミュレーションゲームにおいても、ゲーム制作者が主観的に想定した範囲内でしかゲームを行うことはできず、その主観的な範囲を超えることは、映画著作物としての同一性保持権の侵害となるということである。
 しかしながら、まず、第一に、この主張は、シミュレーションゲームの特質、すなわち、シミュレーションゲームはプレイヤーの主体的参加があって初めて成り立つものであること、逆から言えば、劇映画や小説と異なり、ストーリーの展開が完全に固定されていないという著作物の特質、種類、内容を完全に無視している。
 第二に、原告の主張する「予め予定されたゲーム展開の幅」というのは、ゲームのパッケージや取扱説明書はもちろんのこと、プログラム中にも記述していないのであって、第三者が客観的に認識することはおよそ不可能である。このようなものは、そもそも著作権による保護の対象になじまないことが明らかである。もし、ゲーム制作者がゲームの特定の進行段階において、特定の幅の以外のパラメータの入力を許さないのであれば、そのようにプログラムを作成すればよいだけの話である。
 第三に、原告の右主張は、プログラムそのものではなく、プログラムの実行に関して作成される単なるセーブデータ(それは、単なるパラメータ=数字にすぎない)についてまで著作権性を認めることに他ならないが、これは極めて不当な結果を招くことは明らかである。例えば、デジタルデータの内容が新聞記事や写真のような場合には、新聞記事や写真と同様に著作権の保護が与えられるべきであることは当然であるが、特定のプログラムの実行との関係で意味を有するにすぎないセーブデータ(パラメータ)についてまでゲーム制作者の著作権が及ぶとすることは明らかに行き過ぎである。

二 本件ゲームソフトが映画の著作物であることは争う。
 映画の著作物であるためには、@映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること、A物に固定されていること、B著作物であること、の三つの要件が必要である。
 本来的な映画の制作においては、予め短時間の連続影像を多数制作しておき、これを取捨選択し、適宜組み合わせて一本の映画が制作される(これを編集という。)。ところで、このようにして制作された一本の映画は、実際に映画に組み込まれた連続影像群の編集著作物ないし集合著作物となるのではないし、個々の連続影像の形成に創作的に関与した者による共同著作物ないし共有著作物になるものでもない。一本の映画全体の形成に創作的に関与した者たちのみが、「映画の著作物」の著作者となるのである。 右のように「映画の著作物」においては、最も重要な本質的な創作行為は、カットとモンタージュに代表される編集行為である。そこでは、多数の短い連続影像群のどれとどれを、どの位置に、どの順番で、どの長さで表示するか等が決定されるのである。この連続影像群の選択、組み合わせ、順番という創作性がもっとも発揮される部分が異なれば、素材としての短い連続影像が共通のものがあったとしても、それはもはや別の映画の著作物というべきである。
 映画の著作物であるためには、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法」を用いて創作的になされた表現が「物に固定されている」ことが必要である。
 「物に固定されている」とは、「著作物が何らかの方法により物に結びつくことにより、同一性を保ちながら存続し、かつ著作物を表現することが可能な状態」をいう。そして、著作権法二条三項を素直に読めば、「物に固定」されるべきものは、「映画の著作物」の構成要素ないし原著作物群ではなく、「映画の著作物」たる表現そのもの、すなわち、著作者の思想又は感情を創作的に表現した一定の連続影像群であるというべきである。「映画の著作物」が「何らかの方法により物に結びつくことにより、同一性を保ちながら存続」するというのは、実際に表示される連続影像群の選択、組み合わせ、順番が有体物に記録されていることをいうのであり、その有体物に一定の再生を加えれば、特定の連続影像群が特定の組み合わせで、特定の順番で表示される場合に初めて「著作物を再現することが可能な状態」にあるといえるのである。映写フィルム、ビデオテープ、ビデオディスク等は再生機械にかければ、常に同一の連続影像が再現されるが、このような状態を指しているというべきである。
 映画の著作物においては、その最も重要な本質的な創作行為は、右のように編集であり、その成果が「物に固定」されることにより「映画の著作物」としての表現形式上の本質的特徴が明らかになるのである。
 本件ゲームソフトは、シミュレーションゲームであって、どの連続影像が、どのような順番で、どのような組み合わせで表示されるかは、当然のことながらプレイヤーの操作によって変化する。特定の連続影像群を、特定の組み合わせで、特定の順番で表示することはパラメータが乱数に依存している部分もあって事実上不可能である。したがって、本件ゲームソフトの場合、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法」を用いて創作的になされた表現が「物に固定されている」とはいえないのである。


第三 当裁判所の判断

一 本件ゲームソフトの著作物としての性格

1 原告は、コンピュータ用ゲームソフト及びその他のアミューズメント機器を製作、販売することを主たる業務内容とする法人であり(争いがない)、その発意に基づき、従業員にコンピュータ用ゲームソフト「ときめきメモリアル」(以下「本件ゲームソフト」という。)を職務上作成させ、平成六年五月二七日、ゲーム機「PCエンジン」用のゲームソフトとして、原告の著作名義の下に公表し、発売した。そして、その後、原告は、本件ゲームソフトにつき、平成七年一〇月一三日、「ときめきメモリアル〜forever with you〜」という題名でゲーム機「プレイステーション」版を、平成八年二月九日、「ときめきメモリアル〜伝説の樹の下で〜」という題名でゲーム機「スーパーファミコン」版を発売した(甲一の1・2、弁論の全趣旨)。
 原告が本件ゲームソフトについて著作者人格権及び著作権を有することは、当事者間に争いがない(但し、内容については争いがある。)。

2 本件ゲームソフトの内容は、ゲームを行う者(以下「プレイヤー」という。)が架空の高校「きらめき高校」の高校生(以下「主人公」ともいう。)となって、設定された登場人物の中から憧れの女生徒とする人物を選択し、卒業式の当日、伝説の樹の下でこの女生徒から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)を目指して、高校三年間勉学や様々な出来事、行事等を通して、憧れの女生徒に相応しい能力を備えるための努力を積み重ねるという恋愛シミュレーションゲームである(争いがない)。
 本件ゲームソフトは、プレイヤーが主人公として三年間の高校生活における行動により、卒業式の日に、好意を抱いた女生徒から愛の告白を受けるというハッピーエンディングに至るか、誰からも愛の告白を受けられずに三年間を終了するバッドエンディングとなるかの差異を生じ、また好意を抱いた女生徒から一度愛の告白を受けて本件ゲームのエンディングを迎えたとしても、再度最初からプレイをし、前回とは異なった手順(勉強、運動、イベント等への取組みの変更)を踏むことにより、全く異なったゲーム展開を楽しむことができ、前回とは異なった女生徒(藤崎詩織ら一一名、各人性格や容貌、趣味、男性に対する好み等が異なる設定)から愛の告白を受けることができ、また同一の女生徒に対して異なった手順により愛の告白を受けることも可能である。
 本件ゲームソフトのプログラムを実行すると、次のような形でゲームが展開していく(甲一一、検甲一・二)。

 序(はじめ)
 まず、プレイヤーの名前(姓・名・あだ名)、誕生日及び血液型を入力する。
 プレイヤーの能力は、体調・文系・理系・芸術・運動・雑学・容姿・根性・ストレスの九つの要素について数値で表されている(以下、この数値を「表パラメータ」という。)が、ゲームのスタート時点(一九九五年四月四日)では、予めその初期値が体調100、文系40、理系40、芸術40、運動40、雑学32、容姿60、根性5、ストレス0に設定されている。また、主人公が女生徒からどのように思われているかを示す三つ(ときめき度・友好度・傷心度)の「隠しパラメータ」の初期値も決められている。
 コマンドは、画面左側に表示されたアイコン(三列五段)で表示され、文系の能力を高めようと考える場合は、文系学習のアイコンを選択し、女生徒とデートの約束の電話をしたい場合は電話のアイコンを選択することとなる。

 破(中)

(1) 憧れの女生徒から愛の告白を受けるという目的を達成するために、プレイヤーは高校三年間の間に、次のようなプレイを行う。
 一週間を一単位として、平日には、勉強(文系、理系、芸術)・運動・部活・おしゃれ・遊び・休養の各コマンドのいずれかを選択して、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー自身の能力を高める。その結果、ゲームのスタート時点で予め設定されている表パラメータが上昇する(但し、ストレスのパラメータは、休養コマンドの選択により下降するが、その他のパラメータも変化する。例えば、文系のコマンドを選択すると、文系のパラメータは上昇するが、ストレスのパラメータも上昇する。また、休養のコマンドを選択すると、ストレスのパラメータは下降するが、容姿等のパラメータも下降する)。
 同じく一週間を一単位として、休日には、右のコマンドの外、電話・デートの各コマンドのいずれかを選択することができる。デートのコマンドを選択した場合、相手の発言に対して返答を要する場面や行動を決定しなければならない場面が設定されていることがあり、その際のプレイヤーの選択の内容いかんによって、プレイヤーに対する女生徒の評価(隠しパラメータの数値)が変化する。
 その他、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)をきちんとこなすことによってもプレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
 また、平日に女生徒と一緒に下校したり(同伴下校)、女生徒の誕生日にプレゼントを渡すということも可能であり、その際のプレイヤーの選択の内容いかんによって、プレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
 プレイヤーの選択したコマンドは常に成功するとは限らず失敗することもあり、また、プレイヤーは常に健康とは限らず病気になり怪我をし、あるいはノイローゼになるなどのアクシデントも予定されていて、これらによりプレイヤーのパラメータは変動する。
(2) 本件ゲームは、三年間を舞台としているためプレイ時間が非常に長くなり、そのため、ユーザーは数日に分けてプレイが楽しめるように、途中でゲームの進行状況を数値として保存することができ、その保存は市販のメモリーカード(本件メモリーカードとは別)に、「セーブ」コマンドにより行うことができる。これにより、ゲームを途中で終了させた場合でも、次にゲームを起動させる際には、メモリーカードから保存した数値をゲーム機本体(RAM)に読み込むことにより、保存時の続きからゲームを進行させることができる。
 なお、表パラメータは、画面上部の「プレイヤーのステイタス表示部」に表示されて、常時確認することができ、プレイヤーに対する女生徒の評価(隠しパラメータ)については、プレイヤーが親友(女生徒早乙女優美の兄早乙女好雄、女生徒の情報等に詳しい男生徒として設定されている)に電話をすることで確認することができ、これにより、目的の女生徒が機嫌を損ねているか等のプレイヤー(主人公)に対する評価の状況(七段階)を確認することができる。

 急(おわり)
 右のプレイを続けた結果、卒業式当日(一九九八年三月一日)に憧れの女生徒から愛の告白を受けることができるか否かが判定される。判定に当たっては、表パラメータが憧れの女生徒に相応しい数値まで高まったかどうか、「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」(隠しパラメータ)が一定の数値に到達しているかどうかが総合して考慮され、の条件を満たしていれば愛の告白を受けることができるという形(ハッピーエンディング)でゲームが終了するが、条件を満たしていなければ、親友と家路につくという形でゲームが終了することになる。

3 本件ゲームソフトのストーリーの設定
 右のように、本件ゲームソフトは、スタートが高校入学の時点(一九九五年四月四日)であり、高校三年間の様々な出来事を経て、ラストである卒業式当日(一九九八年三月一日)に至るという時間的な枠組みがあり、その枠組みの中で様々なストーリー展開が予定されている上、プレイヤー(主人公)の能力値として九つの要素に分けた初期値が設定され、プレイヤーが平日・休日に選択できるコマンドが予め設定されるとともに、コマンドの選択如何によって上昇するパラメータと下降するパラメータが連動するように設定されており(この設定に制作者の創作上の苦心がある)、これらの点にゲーム操作上の面白さと難しさがあるとされている(甲二二)。
 本件ゲームソフトでは、プレイヤーの前に登場する女生徒は一一人であるが、いずれの女生徒と出会い愛の告白を受けられるかはプレイヤーの到達したパラメータの数値如何によるところ、例えば、本命とされる藤崎詩織から愛の告白を受けるためには、(a)九つの表パラメータの値に関して、文系・理系・芸術・運動各130以上、雑学120以上、容姿・根性各100以上、ストレス50以下であること、(b)隠しパラメータの値に関して、ときめき度80以上、友好度50以上、傷心度50以下、デート回数八回以上であること、の各条件をともに満たしていること、というように設定されているため、プレイヤーにとっては、初期設定の平凡な能力値から勉学・スポーツともに優秀で容姿も端麗であるという最高の能力値を備えた人物に成長するよう各パラメータの上昇・下降のバランスをとりながら操作をすることが求められている。
 また、他の女生徒を本命として操作するときには、その女生徒の特性に応じて設定された表・裏の各パラメータを達成する必要がある。
 このように、本件ゲームソフトにおいては、初期設定の主人公の能力値から出発し本命の女生徒から愛の告白を受けることを目標として主人公自身の能力を向上させていくことが中核となるストーリーであり、その過程で主人公の能力値の達成度に応じて他の女生徒との出会いがあるという物語の設定となっている。(甲二一・二二・三〇)

4 本件ゲームソフトの構造
 本件ゲームソフトは、シミュレーションゲームとしてモニターには影像が写され、スピーカーからは音声が出され、プレイヤーが選択するコマンドの操作により記憶媒体であるCDーROMに収められたプログラムに従った場面展開がなされるもので、スタートからラストの場面に至るまですべてプレイヤーの操作によってのみ場面が進行する。しかし、プレイヤーの選択するコマンドの内容を読み取り、それに従って場面を展開するのはあくまでコンピュータ・プログラムの機能であり、あるコマンドの実行によりプレイヤーの九つの表パラメータや三つの隠しパラメータの数値がどのように上昇し下降するかは予めプログラム中に設定されたところに従って決定されることとなる(右パラメータは乱数に依存しているため、その変動を特定することは困難である。)。そして、各場面に表われる影像(登場人物や背景)や音声はもとより、主人公(プレイヤー)や登場人物(キャラクター)の設定、コマンドの選択条件などはすべて一定のデータとしてCDーROMに収められている。

5 本件ゲームソフトの著作物性

 右のように、本件ゲームソフトはプログラムとデータとからなるもので、シミュレーションゲームに不可欠な影像や音声はすべてデータとして保存されている。
 ところで、著作権法一〇条一項七号にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む(同法二条三項)とされているから、本件ゲームソフトが再生機器を用いてモニターに各場面に応じて(連続的ではないとしても)変化する影像を映し出し、登場人物が当該場面に相応しい台詞を述べて一定のストーリーを展開している点で、本件ゲームソフトは右にいう「映画の著作物」に該当するものということができる(本件ゲームソフトのプログラムとデータがすべてCDーROMに保存されモニターを通じて再生される以上、「物に固定されている」との要件を欠くものではない。)。
 また、本件ゲームソフトのプログラムはコンピュータに対する指令を組合わせたものとして表現したものを含むものと認められる(弁論の全趣旨)から、同法一〇条一項九号にいう「プログラムの著作物」にも該当する。
 そして、本件ゲームソフトにおいては、データに保存された影像や音声をプログラムによって読み取り再生した上、プレイヤーの主体的な参加によって初めてゲームの進行が図られる点で、「映画の著作物」と「プログラムの著作物」とが単に併存しているにすぎないものではなく、両者が相関連して「ゲーム映像」とでもいうべき複合的な性格の著作物を形成しているものと認めるのが相当である。

 本件ゲームソフトでは、モニターに登場する女生徒とモニターには登場しないがゲーム進行の中心的役割を担う主人公(プレイヤー)とが高校生活の三年間に互いに交流を深め、かつ、主人公が勉学・運動・容姿等の能力を高めることによって、最後に女生徒から愛の告白を受けることを目的として設定されている。
 そのため、女生徒の容姿や表情はモニターの画面を通じて見ることができる一方、主人公の容姿や表情はモニターを通じて確認することはできないが、女生徒は常に画面を通じて主人公に話しかける影像になっており、双方の対話と交流を通じてストーリーが展開する形が採用されている。他方、女生徒の台詞や主人公に接する態度は幾種類かに固定されているのに対し、主人公は高校入学直後の能力が初期値として設定されているのみで、その後平日・休日のコマンドの選択により能力値は様々に変動し、隠しパラメータの数値も変化することによって能力が向上することが予定されている。
 右のように、モニターに登場する女生徒はそれぞれに画面に映し出される容姿・表情等を通してキャラクターが形成されているのに対し、主人公は影像を通してのキャラクターの形成はなされていないものの、その能力を初期設定値である体調100・文系40・理系40・芸術40・運動40・雑学32・容姿60・根性5・ストレス0という数値に置き換えて表すことにより、高校入学直後の主人公は平凡な普通の高校生としての人物像の形成が図られているということができる。従って、本件ゲームソフトにおいては、「藤崎詩織」やその他の女生徒のキャラクターが著作物として保護の対象となるのみならず、画面に想定される主人公の人物設定も能力値によって表現された登場人物の一人として本件著作物の主要な構成要素に当たるものと認めるのが相当である。

 原告は、本件ゲームソフトにつき、「ゲームソフトに固有の内容」すなわち「ゲームバランス」と「インタラクティブ性」も著作物として保護の対象となると主張する。

(1) 原告は、この「ゲームバランス」こそゲームソフトの面白さを決定する鍵ともいうべき核心的な要素に他ならず、右の「ゲームバランス」によってゲームの進行・構成に関する制作者の表現上の工夫がなされており、直接目には見えない表現上の工夫という意味で、内面的表現形式のひとつということができると主張する。
 これに対し、被告は、原告の主張は劇映画や小説と異なりストリーの展開が完全に固定されていないというシミュレーションゲーム著作物の特質、種類、内容を完全に無視している、原告の主張する「予め予定されたゲーム展開の幅」は第三者が客観的に認識できず、このようなものは著作権による保護の対象になじまないし、原告の主張はプログラムの実行に関して作成される単なるセーブデータについてまで著作権性を認めることになり不当であると主張する。
(2) 原告のいう「ゲームバランス」とは、表パラメータの特定の数値を上昇させるとそれに連動して他の数値が上下するように設定された本件ゲームソフトにおいて、プレイヤーは勉学・運動・容姿等を表す数値間にバランスをとり、かつ、表パラメータと隠しパラメータとの連繋を考えながらコマンドを選択しなければならないこと、あるいはゲームの進行がそのように構成されていることを指すものと解される。
 右のようなバランスは、本件ゲームソフトのプログラムがプレイヤーの選択したコマンドの内容を読み取り、指示内容に従って、予め設定された各パラメータの変動値を主人公のパラメータに追加する方法によって実現しているものと認められる。
 しかし、右のような「ゲームバランス」それ自体は、本件ゲームソフトの制作者が、ゲームのスタートから終結にいたる様々なストーリー展開を設定し、コマンドの選択におけるプレイヤーの操作判断を複雑困難に構成し、そこにプレイヤーの知的活動における面白さを醸成させるというゲームの設計、ゲームのアイデアであって、制作者として知的に最も苦労する場面であるということができるとしても、これが直接著作物として著作権法上保護の対象となるものとはいい難い。本件において著作物として保護されるべき思想又は感情の創作的表現は、工夫された「ゲームバランス」に従って具体的にモニター画面に展開されるところの、本件ゲームソフトに内包された(多数ではあるけれども限定的に設定された)ストーリー(バーチャルな恋愛模様の表現)とその影像にあるというべきである。
 また、原告のいう「インタラクティブ性」とはその概念が必ずしも明確でないところであるが、原告の主張によれば、プレイヤーの入力行為がなければゲームが進行せず、プレイヤーの選択によって具体的なゲームの進行・展開が対話的、双方向的に決定されるという側面を指すものとされるところ、ゲームにそのような特性があるからといって、ゲームの進行・展開は、予めプログラムないしデータに保存された内容から選択されるに過ぎず、右にいう「インタラクティブ性」とは、シミュレーションゲームに独自の操作方法ないしは操作と反応との関係を抽象的に表した技術的な概念というに止まり、それ自体をゲーム展開や登場人物に関する制作者の思想又は感情の創作的な表現ということは困難である。
(3) しかしながら、本件ゲームソフトのプログラムは、主人公の能力に関する初期設定を固定し、その設定を基盤とした上で、プレイヤーが選択した行動(コマンド)に対する能力項目の数値を創作的に加減させ累積させてストーリーが展開するという構造になっているから、プレイヤーによって作り出され蓄積されるセーブデータは、プログラムとは別個独立に截然と区別されて存在する単なる数値ではなく、制作者が初期設定の数値によって表した主人公の人物像(能力値)を変化させ、それに応じたゲーム展開を表現するための密接不可分な要素として構成されているものというべきである。
 従って、その初期設定は勿論、コマンドの選択に関連付けられた各能力項目の数値の加減は、本件ゲームソフトの本質的構成部分となっているもので、これを改変し無力化することは、それによる表現内容の変容をもたらすものというのが相当であり、本件ゲームソフトの著作物としての同一性保持権を侵害するものと解せられる。

二 本件メモリーカードによる改変

1 本件メモリーカードの内容
 被告が輸入し日本国内で販売した本件メモリーカードは、データの記憶単位であるブロックの1ないし13に、それぞれ本件ゲームソフトで使用される九種類のパラメータがデータとして収められたものであり、プレイヤーは、本件ゲームソフトのプログラムを実行するに当たり、本件メモリーカードの任意のブロック(プレイヤーが愛の告白を受けたいと希望する女生徒に関するブロック)内のデータをゲーム機のハードウエアに読み込んで、そのデータを利用することができる。

2 本件メモリーカードの使用によるゲーム展開の変化
 証拠(甲六の1・2、一一、検甲一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、本件メモリーカードを使用すれば、本件ゲームソフトのゲーム展開が次のように変化することが認められる。

 本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用すると、本来、一九九五年四月四日の高校入学の時点における初期値が体調100・文系40・理系40・芸術40・運動40・雑学32・容姿60・根性5・ストレス0として設定されている九種類のパラメータの数値が、入学後一週間足らずの一九九五年四月九日の時点において、例えばブロック1のデータでは、「藤崎詩織」に合ったステイタスでゲームをプレイできるとして、ストレス0以外はすべて999という形で与えられ、ブロック2のデータでは、「紐緒結奈」に合ったステイタスでゲームをプレイできるとして、体調99・文系0・理系999・芸術0・運動0・雑学0・容姿999・根性0・ストレス0という形で与えられる。

 本件メモリーカードのブロック12・13に収められているデータを使用すると、ゲームのスタート時点が高校の卒業(一九九八年三月一日)間際の一九九八年二月二二日(ブロック12)又は同月二五日(ブロック13)に飛び、その時点において、九種類のパラメータが、ブロック12のデータでは、「伊集院レイ」の「エンディンク直前データ」として、体調999・文系998・理系995・芸術998・運動998・雑学873・容姿849・根性973・ストレス0という形で与えられ、ブロック13のデータでは、「藤崎詩織」の「エンディング直前データ」として、体調999・文系998・理系998・芸術998・運動997・雑学894・容姿868・根性987・ストレス0という形で与えられる。しかも、画面上には表示されないのでプレイヤーには見えないが、憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」について、隠しパラメータの数値を満たすようにデータが収められており、残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)ができるようになっている。

 しかし、本件ゲームソフトの本来のゲーム展開では、前記のように、プレイヤーの初期値が低く設定されている上、あるパラメータが上昇すれば他のパラメータが下降するように九つの表パラメータの変化が連動する形で設定されているため、プレイヤーが平日・休日に最善のコマンドを常に選択し続け、すべてのコマンドが成功し、かつ常に健康で病気・怪我・ノイローゼにならないとして、最も効率よくパラメータの数値を上昇できたとしても、その最高値は特定少数のパラメータを999というような高数値にするのが限度で、他の多数のパラメータをも同時に900を超え、あるいは900近い数値にすることは不可能である(甲三〇、検甲六)。
従って、前記のように九つのパラメータの殆どを高数値とすることができるのは、本件メモリーカードに前もって保存してある外部データをゲーム機のRAMに書き込む方法によってのみ可能で、プレイヤーの主体的な操作のみでは達成することはできない。
 また、本来であれば、ゲームのスタート時点においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力することになるところ、本件メモリーカードのブロック1ないし11のデータを使用すると、プレイヤーの名前が「ときメモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されているため、プレイヤー自身の名前やあだ名が表示されず、本件ゲームソフトが予定しているプレイヤーに対する呼び掛けのインパクトが希薄化され、女生徒とプレイヤーとの対話の直接性が毀損されているということができる。

3 ゲーム展開の変化と本件ゲームソフトの改変

 人物設定の改変とそれによる「ストーリー」の改変
 本件ゲームソフトにおいて、「藤崎詩織」その他の女生徒のキャラクターとともに、主人公(プレイヤー)の人物像も物語の展開上重要な構成要素であると解すべきことは前記のとおりである。
 ところが、本件メモリーカードを使用することによって、例えば、ブロック1のデータでは、「藤崎詩織」に合ったステイタスでゲームをプレイできるとして、主人公の表パラメータが高校入学直後の時点でストレス0以外はすべて999という高数値で与えられ、また、ブロック12・13のデータでは、高校卒業間近の時点で、「伊集院レイ」に関するデータが、体調999・文系998・理系995・芸術998・運動998・雑学873・容姿849・根性973・ストレス0という高数値(ブロック12)で、「藤崎詩織」に関するデータが、体調999・文系998・理系998・芸術998・運動997・雑学894・容姿868・根性987・ストレス0という高数値(ブロック13)で与えられるのであるから、これらの高数値によって表される主人公の人物像は、学力・運動ともに最優秀で芸術性にも極めて優れ容姿も抜群という、飛び抜けて高い能力を有する高校生の姿である。
 しかるに、本件ゲームソフトで設定された主人公の人物像は、高校入学直後は平凡な普通の高校生であり、最大限の努力によって卒業間近の時点で達成できる能力も特定少数の分野のみ高数値となるに止まるのであるから、こうした主人公の人物像は本件メモリーカードの使用によって明らかに改変されたものといわなければならない。
 そして、前記のとおり、本件ゲームソフトにおいては、主人公の能力値が初期設定の低い数値であることを前提に、各時点でのコマンドの選択により達成しうる最大限の数値の範囲内でその後のストーリーの展開が図られているものであるから、後記の「女生徒との最初の出会いの時期」の改変に見られるように、当初から主人公の能力値が高数値に置き換えられることによって、プレイヤーがストーリーの展開の過程において入力するコマンドの数値を無効化し、右のストーリーが本来予定された範囲を超えて展開されることとなり、この点で主人公の人物像の改変がストーリーの改変をももたらすものということができる。

 「女生徒との最初の出会いの時期」の改変
 本件ゲームソフトでは、主人公の能力値が低い段階から物語がスタートし、表パラメータの数値が一定値に達したとき初めてそれに応じた女生徒が登場する設定となっているから、主人公の能力が一定値に達する時期までは女生徒が登場しない前提でストーリーの展開が図られているものということができる。
 しかるに、本件メモリーカードのブロック1ないし11によれば、高校入学直後の主人公の能力値が極めて高いものに改変される結果、入学当初から本来はあり得ない女生徒が登場することになり、この点でもストーリー展開に顕著な改変があるといわなければならない。

 「ストーリー」の削除
 原告は、本件メモリーカードのブロック12、13により、高校生活三年間を通じて展開されるべき本件ゲームソフトの「ストーリー」がほぼ全部削られ、いきなり卒業一週間前に飛んでしまうのは、ゲーム制作者が設定したゲームの「ストーリー」という基本的な内容に関する重大な改変にほかならないと主張する。原告の右主張は、主人公が高校入学直後の初期値からスタートし三年間という時を経て順次成長する過程を省略することが「ストーリー」の改変に当たるというものである。
 しかし、本件メモリーカードのブロック12、13により、卒業一週間前の時点で主人公の能力値を本来であればあり得ない高数値に置き換えることはその時点での人物像の改変に他ならず、それによりその後のストーリーの展開に改変をもたらすものであることは、ブロック1〜11におけると同様である。
 従って、右により改変されるのは数値が置き換えられた後の展開であって、それ以前のストーリーが削除改変されるものではない。

 以上の他、原告は、本件メモリーカードにより「ゲームバランス」や「インタラクティブ性」についても改変がされたと主張するが、原告のいう「ゲームバランス」や「インタラクティブ性」はシミュレーションゲームの構想の側面であって、それ自体で著作物性を有するものでないことは前記のとおりであるから、仮にこれを変更したとしてもそのこと自体は著作権の侵害ということはできず、この点についての原告の主張は理由がない。

 被告は、シミュレーションゲームにおいては、プレイヤーの参加があって初めてストーリーが展開され、展開の幅も固定されておらず、第三者が展開の幅を認識することもできないから、本件メモリーカードを使用して主人公の能力値を高数値に置き換えたとしても、本件ゲームソフトのストーリーを改変するものではないと主張する。
 本件ゲームソフトにおいては、プレイヤーの参加をまって初めてゲームが展開され、プレイヤーの選択によってストーリーも種々様々に変化して展開される点で、通常の言語や映画の著作物のようにストーリーが固定されているものとは異なることは被告主張のとおりである。
 しかし、本件ゲームソフトにおいても、前記のように、登場人物(主として女生徒)の数や登場の条件は限定され、主人公も能力値が初期設定で特定されていて、それを前提に物語が始まるのであるから、ストーリーの始まりは固定されているものということができ、その後、主人公の能力値と女生徒に関する隠しパラメータの変化に応じてストーリーも具体的に展開するものであるから、ストーリーの選択に幅があるとはいえ、一定の条件下に一定の範囲内で展開するという限定が設けられていることは否定できない。
 従って、主人公の能力値をあり得ない高数値に変更すれば、それが高校生活中のいずれの時点についてされたかを問わず、それに応じた展開の条件も当然に変更され、本来の条件を離れた特異なストーリーの展開を示すことになるもので、その点においてストーリーの改変に当たるものといわなければならない。
 本件ゲームソフトにおけるプレイは、長時間に及ぶものであるため、市販のメモリーカードを利用して、プレイヤーがゲーム操作によって蓄積した結果を中間的に保存し、また任意の時間に右メモリーカードに記録したゲームデータをプレイステーションに呼び込み、従前のゲームの続きを行うことが許容されている。
 しかし、市販のメモリーカードに保存されるデータは、あくまでも本件ゲームソフトの制作者が想定した枠内のゲーム展開の結果のみであり、最初からのゲーム展開のデータに限られ、本件ゲームによって作成されたデータ以外のデータの呼び込みを許容しているものではなく、また、最初からのゲーム結果の省略ができるものでもない。
 市販カードの使用が許容されるといっても、その意味は右の限度のものであって、市販カードの使用が許容されているということのみから、本件メモリーカードが許容される範囲内のものであるということはできない。
 なお、予め予定されたゲーム展開の幅が第三者に客観的に認識できないものであっても、著作権の成立を妨げるものではなく、そのことが、本件メモリーカードの作成を許容する理由とはならない。また本件メモリーカードを使用してもプログラムが停止したり暴走したりすることなく正常にゲームを進行することができるということも、本件ゲームソフトが許容する範囲であることの根拠とはならない。
 なお、本件ゲームソフトのプログラム中には一定以上の数値を読み込むことを禁止するチェックルーティンは組み込まれていないけれども、そのことが本件著作物の同一性保持権侵害の成否を左右するものでもない。

三 本件著作権の侵害主体について
 本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのプログラムを実行することが本件ゲームソフトの著作物としての同一性保持権を侵害するものであり、そのようなゲームを行っている者は個々のプレイヤーということになるが、本件メモリーカードの制作者は、右行為に主体的に加功していることは明らかであり、本件メモリーカードの制作者はこれを意図してその制作をした者であるから、右カードを使用して行う本件ゲームソフトの改変行為について、制作者はプレイヤーを介し本件著作物の同一性保持権を侵害するものということができ、これを購入した者は本件メモリーカードを使用して本件ゲームを行ったものと推認できるから、制作者はプレイヤーの本件メモリーカード使用の責任を負うべきものというべく、右改変をするメモリーカードの輸入、販売をした被告も著作権法一一三条一項一号・二号より同一性保持権侵害の責任を免れないというべきである。

四 原告の損害
 被告は、平成七年一二月頃から本件メモリーカードを輸入し、日本国内で販売した(争いがない)ところ、証拠(甲八、九の一)によれば、右輸入総数は七〇〇個(輸入単価一二六〇円)で現実に販売した総数は五二二個(販売単価二九八〇円)であるが、本件メモリーカードには接触不良の箇所があったため、まもなく輸入・販売を中止し、在庫品は廃棄処分にしたことが認められる。
 前記のように、本件メモリーカードにより原告が本件ゲームソフトについて有する著作物の同一性保持権が侵害されたものというべきところ、それにより原告の被った損害は、本件メモリーカードの販売総数・販売利益、本件ゲームソフトの内容・性格、侵害の態様などの事情を勘案すると、一〇〇万円と認めるのが相当である。
 なお、右侵害の内容・程度等に鑑み、名誉回復等の措置として謝罪広告までは必要とは認められない。

五 本件ゲームソフトの複製権侵害については、原判決中の複製権侵害に関する部分(原判決一一頁三行目から同一二頁二行目まで、同五八頁九行目から同六〇頁七行目まで)を引用する。


第四 結論

以上の次第で、被控訴人は、本件ゲームソフトの同一性保持権及び複製権侵害により、控訴人に対し、一一四万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年一二月二七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきであるから、控訴人の本件請求は右の限度で認容すべきである。
  よって、これと異なる原判決を本判決主文のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

口頭弁論終結日 平成一〇年一二月一六日)
大阪高等裁判所第八民事部

        裁判長裁判官    小  林  茂  雄

           裁判官    小  原  卓  雄

           裁判官    山  田  陽  三