平成14年1月7日付の朝日新聞ニュース「音楽ネット配信が原因? レコード生産3年連続前年割れ」は、音楽用レコードの生産枚数が3年連続前年割れとなったと報じている。朝日新聞社(署名記事ではないので、特定の誰がそう考えたのかは不明。)は、その原因として、携帯電話の通信費に小遣いが使用されている他、「インターネットなどによる音楽ソフトのダウンロードが普及したことが背景にありそうだ」と推測している。この推測は正しいのだろうか。
もう少し、朝日新聞の記事を見てみよう。
CD、LP、テープを合わせた音楽用レコードの総生産額は98年の6075億円をピークに減少し、01年は前年比7%減の5002億円だった。97〜98年に約4億8000万枚あった総生産量も、前年比11%減の約3億8千万枚に減った。特に、年間1000億円、1億5000万枚程度の生産規模だったCDシングルが792億円、約1億枚に大きく落ち込んだ。CDアルバムも前年比4%減少した。
これだけみると、いかにもCDの売上げが急激に落ち込んでいるように見える。
しかし、2000年の4億3300万枚という音楽レコード生産枚数は1994年のそれよりも多く、2001年の約3億8000万枚という音楽レコード生産枚数は1992年のそれよりも多い。2000年の約4億1400万枚というCD生産枚数は1995年のそれより多く、2001年の約3億5800万枚というCD生産枚数は1993年のそれよりも多い(なお、音楽レコードの生産枚数等のデータは、社団法人日本レコード協会のWebサイトに掲載されているものを参照した。)。翻って考えてみると、音楽レコードの生産枚数が3億円の大台(「4億円の大台」の間違いではない!)を超えたのは、1991年に入ってからである。すなわち、1990年代、特に1997〜8年ころが異常だったのである。
では、なぜ1990年代、特に1997〜8年ころに音楽レコードが飛ぶように売れ、20世紀の終焉とともに元に戻っていったのであろうか。
おそらく、こういうことであろう。音楽レコードの主要な購買者層は、ハイティーン(但し、18歳以上に限る。中高生は、絶対的な購買力が低いからである。)及び20代(但し、結婚し、家庭を築くようになると、一般に音楽用レコード等の購買力が落ちる。)である。1990年代に入ると、1971年〜1974年に生まれたいわゆる第2次ベビーブーム世代が音楽レコードの主要な購買層であるこの年代に突入していった。そして、20世紀が終わるころ、第2次ベビーブーム世代は、音楽レコードの主要購買層から卒業していった。しかし、新たにハイティーンになっていく世代は、すでに少子化している(1973年に200万人を超えた出生数は、1980年には約150万人にまで落ち込んでいる。)。したがって、1990年代末から2000年代初頭にかけて音楽レコードの売上げが大きく落ち込むのは自然であるし、今後もさらに落ち込むのも自然である。
さらに細かく見てみると、より面白いことがわかる。CDアルバムの生産枚数は、さほど落ち込んでいない(2000年の約2億7600万枚という数字は、1995年のそれより多く、1998年の約2億8900万枚という数字と比べても見劣りしない(しかも、1999年以前の数字には、12cmシングルの生産枚数も含まれている。)。これに対して、CDシングルの生産枚数はたしかに大きく落ち込んでいる。では、1997年以降、CDシングルの世界には何が起こったのだろうか。1997年頃から邦楽CDシングルは徐々に8cmから12cmへと移行し、いまや12cmシングルが主流である。そして、シングルCDのサイズが8cmから12cmへと移行するのに伴い、シングルCDの価格は500円前後から1000円前後へと上昇したのである(もちろん、大抵の場合収録曲も増えてはいるが、CDシングルを購入する人の大多数はシングルカットされた「ヒット曲」を購入するのであって、カップリング曲の数が増えようと、価格の大幅な上昇による購入意欲の低下をカバーするほど、購買欲の増進を生み出すことはない。)。消費者にとって同じような位置づけの商品の価格が短期的に倍近くに跳ね上がったわけであるから、売上げ枚数が大きく落ち込むのは、これまた自然であるというべきである。
このように見ていくと、「インターネットなどによる音楽ソフトのダウンロードが普及したこと」を考えに入れなくとも、音楽用レコードの生産枚数が3年連続前年度割れした理由を説明することが可能である。にもかかわらず、「音楽ネット配信が原因? レコード生産3年連続前年割れ」などという見出しを付けて、あたかも音楽ネット配信がレコード生産枚数減少の原因であるかのような印象を与える見出しを掲げた朝日新聞社の真意はどこにあるのだろうか。
毎日新聞の記事によれば、今年もまた、「コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は、企業内でのビジネスソフトの不正コピー利用を防止する啓発キャンペーンに乗り出す。」のだそうだ。何でも、「ACCSの調査によると、2001年の企業内の不正コピー率は34%に上っているという。」のだそうだ。しかし、考えてみると、「2001年の企業内の不正コピー率」なんてものがなぜ下一桁まで正確にわかるのかというのは普通に考えても疑問である。そこで、ACCSのホームページを見てみると、そこには何も書いていないので、Business Software Alliance(BSA)のホームページをみると、
同調査は、BSAの委託により、インターナショナル・プランニング・アンド・リサーチ(International Planning and Research、以下IPR)が毎年実施しているもので、今年で6回目の調査となります。26種類のビジネス・アプリケーションを調査対象に、世界6大地域における85ヶ国のソフトウェア市場の売上データと市場情報にもとづき、違法コピー率と、違法コピーによる経済的損害を算出しています。との記述がある。「売上げデータ」というのはわからないではないが、「市場情報」といわれても何を指しているのかは皆目見当が付かない。
その下を見ると、
【4】違法コピー率算出方法 インストールされたソフトウェア(需要)本数と合法的に出荷されたソフトウェア(供給)本数との差が、違法コピーされたソフトウェアの数に相当すると考えられる。著作権侵害度は、違法コピーされたソフトウェアの数をインストールされたソフトウェア総数で割った割合(%)で算出される。
まあ、
(1) この調査の詳しい情報は、BSA本部のウェッブサイト(http://www.bsa.org 英語のみ)に掲載しています。との記述もあることなので、BSAのPIRACY STUDYを読んでは見たのだが、いろいろと書いてある割には、結局、
From market research provided by member companies,IPR determined the number of software applications installed per PC shipment and developed these ratios for the four shipment groups:とあるものの、「会員企業から提供された市場調査」の内容、及び、「会員企業から提供された市場調査」から「PCの出荷台数ごとにインストールされたソフトウェア・アプリケーションの本数」を決定するに至る思考過程がわからないのである。
1.Home -New Shipments
2.Non-Home -New Shipments
3.Home -Replacement Shipments
4.Non-Home -Replacement Shipments
何はともあれ、PCが100台出荷されていれば26種類のビジネスソフトはそれぞれ○○本インストールされているはずであると調査会社が決定したインストール比率数×PCの出荷台数というのが、ここでいう「インストールされたソフトウェア(需要)本数」なのだということがわかった。ということは、調査会社が算出した「インストール比率」が間違っていれば、不正コピー率だった間違いということになる。その国の「違法コピー率」を上昇させるのも下落させるのも、結局、この調査会社の胸先三寸ということなのだ。
BSAの方がもし見ていて、文句があるというのであれば、「会員企業から提供された市場調査」の内容、及び、「会員企業から提供された市場調査」から「PCの出荷台数ごとにインストールされたソフトウェア・アプリケーションの本数」を決定するに至る思考過程をまず明らかにすべきであろう(できれば、日本語訳を付けて!)。
「電子商取引の法務と税務(第2版)」用の原稿について、ペン入れがほぼ終了(あとは、初稿作成当時判例集未登載だった裁判例がその後判例集に掲載されたかを休み明けにチェックすれば完了。)。初稿原稿を送ったのはずいぶん前なので、手を入れ始めるときりがないのだけれども。それにしても、ここ1年くらい、電子マネー、電子決済について、あまり社会は進展していないような気がしてならない。年末に大きめの本屋に行ったのだが、電子マネー関係の本はだいたい初刷りが20世紀のものばかりだったし。あとは、準備書面を1本書けば、冬休みの宿題は終わりだ。
正月三ヶ日は、本当にゆっくりすることができた。オンラインソフトをいろいろ試したり、各種テンプレートを作成したり、こういうことは時間があるときでないとなかなかできないものである。
それにしても、NetScapeとExploreとiCabと、同じhtml文書を表示させても、微妙に見え方が違うというのは困ったものである。java-scriptはあまり使用しない予定なので、致命的ではないのだけれども。
さて、国民生活審議会消費者政策部会・消費者契約適正化委員会合同部会(第6回)によれば、
消費者が利用しやすい裁判の仕組みを工夫していただかなければなりません。例えば,弁護士制度にしても,弁護士の数が絶対的に不足していると 私は思うのですけれども,弁護士の数を増やすのには,弁護士会でもいろいろご議論があるようです。弁護士報酬にしても,1時間1万円以上かかるということがあって,我々消費者から見たら,司法サービスを利用するときのカルテルのようなもので,それを割ったらダンピングという話になるわけですが,弁護士によっては,もっと安く,例えば1,000円でやってくれる弁護士も,3,000円でやってくれる弁護士もいてもよいのではないか,普通の業界だったらみんなそうやっているわけですが,弁護士会だけは,そうはなっていないということがあります。のだそうです。
しかし、いわゆるクイックマッサージは大体1分あたり100円が相場だし、占い師の電話鑑定料は20分で3000円(直接鑑定だと、30分1万円)だし、精神科医によるカウンセリングの診療報酬が1回3400円(たぶん。ただし初診料、検査料などは別)、これを「3時間の診療時間で20人程の患者を診察しなければならない」のだそうだから、単純計算すると、3400円×20人÷3時間≒2万3000円の時間単価になる。パソコンやプリンターの修理だって、予め保守契約でも結んでいない限り、1時間1000円でやってくれるところなどない(例えば、日立は、予め保守契約を結んでいない相手のところへ出張して修理する場合、技術者派遣費(1万6000円/件)+技術料(1万5000円/人・時間)+部品代を請求することになっている。そう考えると、少なくとも1対1でサービスを提供することが予定されている業界において、「1時間1000円」でサービスを提供する人もいるという状態が「普通」だとは思えないのだが。
弁護士以外の「普通の業界だったらみんなそうやっている」のだろうか、本当に。
そもそも、この研究部会の委員さんの中に「1時間1000円」で仕事をしている人がおられるのなら、紹介してほしいものだ。