弁護士 小 倉 秀 夫
インターネット上での誹謗中傷問題を考える上で理解しておくことが必要な、基本的な法律用語を解説していきます。
誹謗中傷って、誰かが発した情報が誰かに受信されるからこそ問題となります。インターネット上での情報の送受信は、大きく分けて、① 送信者が特定の受信者に向けて行うものと、② 送信者が不特定の受信者に向けて行うものとに分かれます。②はさらに、②の1 サーバコンピュータ等を介して不特定の受信者に向けて送信を行うものと、②の2 受信者側にある受信設備まで直接送信をしてしまうものとに分かれます。①の典型例は、電子メールです(SMSや各種DMサービスなどもこれに含まれます。)。②の1の典型例は、WWW(ワールドワイドウェブ)と言われるものです。各人や各企業のウェブページの外、電子掲示板や、Twitter、Facebook等のSNSサービスを利用した情報の発信もこれに含まれます(専用アプリを用いるかどうかを問いません。)。②の2の典型例は、インターネットを利用したテレビ放送で、セットトップボックスを活用するものです。
このうち、②の1のタイプの電気通信の送信のことを、「特定電気通信」と言います。
情報が、アップロードのためにウェブサーバ等にアップロードされ、公衆からの送信要求に応じて、その送信要求を発してきた端末に向けてウェブサーバ等から送信される──このようにして情報を不特定人に向けて電磁的な方法により送信することが、「特定電気通信」なのです。
送信要求をしてきた端末にのみ向けて情報を送信するものであれば、データが送信装置に入力されると同時に送信をする「ライブ配信」も、「特定電気通信」にあたります。
このような「特定電気通信」に用いるために提供されている電気通信設備のことを「特定電気通信設備」と言います。ウェブサーバやライブ配信用サーバ、電話回線とインターネット回線とを接続するルータ等がこれに当たります。インターネットを介したライブ配信用の設備も、特定電気通信設備にあたります。
令和3年改正では、ウェブサーバやライブ配信用サーバ、ルータなどの「特定電気通信設備」を用いて他人の通信を媒介するなど、特定電気通信設備を他人の通信のために使用させるサービスのことを「特定電気通信役務」と呼ぶことにしました。インターネット接続サービスやホスティングサービス、電子掲示板の開設、ブログサービスの提供、SNSサービスの提供などが典型例です。
特定電気通信役務を提供する者のことを「特定電気通信役務提供者」といいます。ホスティングサービスや、電子掲示板やブログサービス、SNSなど他人の投稿を受け付けてこれを広く公衆に配信するサービスの提供者(コンテンツプロバイダ)や、ルータを用いたインターネット接続サービスを行っている接続プロバイダ(ISP)などがこれにあたります。
特定電気通信役務の中には、予め登録した利用者にしかそのサービスの提供をしないものがあります(ブログサービスや、Twitter、FacebookなどのSNSサービスがその典型例です。)。そのような特定電気通信役務を利用して特定電気通信を発信するためには、特定電気通信役務提供者に対して、認証用のデータを送信しなければなりません(認証用データを送信して、そのような特定電気通信役務を利用できるような状態にすることを、通常、「ログイン」といいます。)。
つまり、そのような特定電気通信役務を利用して特定電気通信を発信するにあたっては、前もって、その特定電気通信役務にログインするために、所定の認証データ(ID及びパスワード等)を、その特定電気通信役務の提供者に、インターネット経由で送信する必要があります。そして、令和3年改正法では、侵害情報の発信者が、侵害情報の発信のために用いた特定電気通信役務を利用するために行った所定の認証データの送信のことを「侵害関連通信」と呼ぶことにしたのです。
発信者情報開示請求の相手方となる特定電気通信役務提供者のことを「開示関係役務提供者」といいます。
現行法上は、それによる情報の流通によって開示請求者の権利を侵害する特定電気通信のために、その特定電気通信設備を使用させる者のみが、開示関係役務提供者とされています。
令和3年改正法では、さらに、侵害関連通信の送信に用いられた電気通信設備(インターネット接続ルータ)の提供者(関連電気通信役務提供者)をも開示関係役務提供者に加えることとしたのです。
特定電気通信役務によっては、一旦ログインに成功すると、意図的にまたは自動的にログアウトしない限り、インターネット接続に用いるルータが替わっても、(新たにログインすることなく)引き続きその特定電気通信役務を用いることができるものがあります。この場合、ログイン用の認証データの送信に用いた接続プロバイダと、侵害情報のウェブサーバへの送信に用いた接続プロバイダとが、別の事業者であるという事態が生じ得ることになります。その場合、ログイン用の認証データの送信に用いられた接続プロバイダに対し発信者情報開示請求をなし得るのかについて下級審裁判例が分かれていましたので、令和3年改正により、請求をなし得ることを明文で定めることにしたのです。
特定電気通信の起点となる行為をした人が「発信者」となります。具体的には、蓄積型の配信については、ウェブサーバ等に接続した記録媒体に情報を記録した者が「発信者」です。ライブ配信の場合、ライブ配信用サーバに情報を入力した者が「発信者」です。
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